こんにちは, 首藤です. Wathematicaアドベントカレンダー初日の記事になります. 初日なので軽めの, 誰でも読めるような記事にしようと思います.
その前に軽く自己紹介をしておくと, 私は現在数学科の学部4年生で, 微分幾何を専攻しています. 微分幾何専攻と言いつつ最近は代数トポロジーとか統計学とかばっかやってますが… 機械学習にも興味があってそっちもやってみたいなぁなんて思ってます.
特にオススメな本には*を, 全然読んでない本には!を先頭につけています.
基礎数学
初年度に習うような基本的な内容の数学(線形代数・微積分・集合論など)の本です.
微積分の入門書です. 数学科が読まされる微積分の本ってだいたい杉浦解析だと思うんですけど, あっちはちょっと初学者が読むには難しすぎるし詳しすぎるので, こっちの方が個人的にはオススメです.
上の本の線形代数バージョンです. 有名なのは同じ著者の『線形代数入門』(緑色のやつ)だと思うんですけど, そっちより柔らかめでわかりやすいイメージがあります. 定番本の著者によるリライトなだけあって, 本当にいい本になっています.
この2冊で, いわゆる数学科スタイルの勉強法(教科書の内容を丸々ノートに書き写し, 1行ずつしっかり理解する)に慣れるのもオススメです. 同級生を集めて自主ゼミをやるのもいいですね.
数学科で佐武線形って呼ばれてるやつです. 僕は通しで読んだことはなくて, 辞書みたいに使ってます. 線形代数についてめちゃくちゃ詳しく書いてあるんですが, 詳しすぎて初学者には向かないと思うので, 線形代数を一通り学んだあとで知識の整理をするために読むか, 僕みたいに辞書代わりにするのがいいと思います.
*池田岳『テンソル代数と表現論』
線形代数の入門書ってだいたい対角化か, やってもジョルダン標準形までいったあたりで終わっちゃうんですよね. その先がやりたい場合, まあ佐武線形か下の『線形代数の世界』を読むのが定石だったんですが, 基本レベルの線形代数をやっと終えたぐらいの人にとってはちょっと難しいんですよね. この本はいい感じに”線形代数の続き”になっています. 純粋数学やってると意外と使わないジョルダン標準形, なんか面白い双対空間, いつの間にか学んだことにされがちなテンソル代数, さらには有限群の表現論なんかまで幅広く, そしてわかりやすく載っています. 線形代数の続きをやりたい方, 表現論に興味がある方におすすめです.
!斎藤毅『線形代数の世界』
線形代数の続きの定番本です. 表現論については載ってませんが, 双線型形式とかの線形代数の部分がより詳しく書いてあります. 僕は全然読んでないんですが, 聞いた話では記述が結構独特らしいので, 人を選ぶ本だと思います.
藤田博司『「集合と位相」をなぜ学ぶのか』
集合論や位相空間論がどのように数学に導入されてきたかについて書いてあります. 書き方は数学書と普通の読み物の間くらいの感じ. 集合・位相を学ぶモチベーションが知りたい方は読んでみてください.
*松坂和夫『集合・位相入門』
集合論やるんなら松坂か内田の2強です. 僕は松坂の方をおすすめします. 理由は単純で, こっちの方が簡単だからです. 数学初心者であっても読みやすいようにわかりやすく書かれています.
ただ, 集合論の本を読む際には注意点があって, ”やりすぎない”ことです. のちのち公理的集合論をやりたいとかでもなければ, 集合論の半分くらいは一切使わないので, 読まなくてもいいと思います. 基礎論以外の数学で必須なのは集合・写像, 濃度(可算と連続ぐらいの粗さでいい), 同値関係, Zornの補題(概要だけ)あたりですかね.
位相空間についても同様で, ほどほどにしておきましょう.
!内田伏一『集合と位相』
集合論2大巨頭のもう片方です. こっちも非常にいい本だとは思うんですが, 初学者には難しいと思います. ゼミで読んだりするならこっちもいいかもしれませんね.
解析
解析はぜんぜん詳しくないんであんまり参考にならないとは思うんですが, 一応書いておきます.
!神保道夫『複素関数入門』
複素関数論の入門書です. 複素解析って結構難しい分野で, その分学習コストが高くなりがちなんですが, この本はとてもやさしく書いてあります. 僕はなんかピンとこなかったんで途中で読むのやめちゃったんですけど, ちゃんと最後まで読み通せば複素関数論についてある程度詳しくなれると思います. 留数定理とかの美しい定理について知りたい数学初心者におすすめ.
L. V. アールフォルス『複素解析』
複素解析の名著です. 神保先生の本とは違って容赦なく進んでいきます. 3年のときに留数定理のあたりまで読んだんですけど, ちょっと時期尚早だったかなぁって思います. 読むのも難しいし, 本質を掴むのはさらに難しいです. 複素解析の方に行きたい方は避けられない本です, 多分.
関数解析の授業の指定教科書だったので買いました. 序盤くらいしか読まなかったです… 関数解析の要点がコンパクトにまとまっているいい本だと思います. 辞書として使っていくつもりです.
測度論の定番本です. 丁寧に, そしてわかりやすく書かれてます. 分量が多いのでそこは注意. つまみ食いしかしてないんですが, 頭から読んでも辞書みたいに使ってもいい本だったと記憶しています.
代数
代数もちょっと表現論をやってたぐらいでガロア理論とかは全然知らないんですが, 書けるだけ書いておきます.
群論の定番本ですね. まあ入門書ではあるんですが, 意外と難しいです. 僕は2年のときにこれを読んで有限群を嫌いになりました…
とまあちょっと悪口を言いましたが, めっちゃいい本であることは間違いないです. 人を集めてゼミで読むのがちょうどいいかもしれませんね.
続きです. 環論, 体論, ガロア理論について書いてあります. これも結構難しいです. 僕は環論の途中くらいまでしか読んでません. 群論の方のゼミが終わったらそのままこっちでゼミを始める人が多いですね.
Brian C. Hall 『Lie Groups, Lie Algebras, and Representations』
リー群, リー代数の表現論の教科書です. Semisimple Lie algebraの表現あたりまで読みました. 表現論といえばフルトンハリスみたいな風潮がありますが, あれは学部生の手に負える代物じゃありません. 他の本も難しいものが多く, 表現論はなかなか手を出しづらいんですが, この本はそこそこ読みやすいです. 行列での話に限定して進めていたり, 具体例を適宜書いてくれるのがありがたいですね. 多分前提知識もそんなにいらないので, リー群, リー代数を表現したいって方はぜひ.
代数幾何の入門書です. 代数幾何はハーツホーンっていう死ぬほど難しくて死ぬほど分厚い本を読んでからやっとスタート地点みたいな言い伝えがあるんですが, この本はそんな大変なことをしなくても代数幾何の面白さを体験させてくれます. そうは言ってもこの本もめちゃくちゃ難しいんですけどね…
授業がこの本に沿ってたんですが, スピードは早いわ内容はムズいはでめっちゃ大変でした. 自分のペースで丁寧に読めば多分わかると思うので, 代数幾何に興味がある方は読んでみてください.
幾何は専門なのでトポロジーと微分幾何に分けました. ホモロジーって大事ですよね.
トポロジーとは書いてありますが, ほとんどホモロジーの話です. これの5, 6章くらいまで読めば, ホモロジーの基本はわかるんじゃないでしょうか. わかりやすく書いてあって結構おすすめです.
*I. M. Singer, J. A. Thorpe『Lecture Notes on Elementary Topology and Geometry』
幾何のいろんな面白い話が書いてあります. 僕はこれで基本群と被覆空間と単体複体を学びました. 位相空間論既習であればChapter1, 2は飛ばしていいと思います. Chapter7から急に難しくなるので注意.
いわゆるBott-Tu. いまゼミで読んでるんですけど, バツグンに面白いです. 微分形式を使って代数トポロジーをやる本なんですが, ド・ラームコホモロジーってこんな風に使えるんだ!ってのがいっぱいあってめちゃくちゃ楽しいです. あと, ベクトル束もたくさん使うのでそれなりに詳しくなれます. 幾何学だとベクトル束とか主束なんかが非常に大事なので, ここでいろんな知識をつけておけば後々役に立つこと間違いなし.
結構感覚派というか, 記述を飛ばしがちだったりするのでその辺は注意.
専門ど真ん中なんで一番分量が多くなってます. 多様体ってのは, ざっくり言うと曲がった空間のことです.
松本幸夫『多様体の基礎』
僕が初めて読んだ多様体の本がこれです. ラノベとか言われてるだけあって, 簡単めで内容も少なめですが, 多様体がどんなものかをざっくりと知りたいだけの方には結構おすすめです. 最後の方はちょっと投げっぱなしなので他の本を読んだほうがいいかも.
**Loring W. Tu 『トゥー多様体』
素晴らしき本です. これ読んどけば幾何の研究室に入れます. ”多様体”についてはもうこれ一冊で十分かちょっと過剰なくらい. 解説が丁寧・厳密なだけではなく, 内容も非常に豊富なので, じっくり読んでもよし, 辞書代わりにしてもよしです.
とは言ったもののちょっと分厚すぎるので, 最初のユークリッド空間パートとか, 目的にもよりますがリー群パートなんかは飛ばしてもいいかもしれません. あとド・ラーム理論はホモロジーを勉強してから読んだほうがいいです.
Loring W. Tu 『Differential Geometry』
トゥー多様体の続きです. 曲率を計算したり接続を導入したり, 微分幾何について一通り学べます. ただ途中からちょっと淡白というか, 面白みに欠けるところがあって, 僕はガウスボンネあたりで読むのをやめちゃいました. まあでも多様体を学んだあといきなり下の『接続の微分幾何とゲージ理論』なんかを読んでも理解できるわけがないので, こっちである程度微分幾何に慣れてから他の本を読むのがいいと思います.
Mark J. D. Hamilton『Mathematical Gauge Theory』
去年のゼミで読みました. リー群・リー代数の表現のところを読んだんですが, なんというかちょっとわかりにくかったです. 主束のところはわかりやすいらしい.
微分幾何の名著. まだ最初の方しか読めてないんですが, 結構難しいです. 経験を積んでから再挑戦しようって1年くらい思い続けていますが, 読む機会がありません.
この本を一通り読めば, 微分幾何をやるにあたって必要になることはだいたいカバーできると思います.
その他
基礎論も入れようかと思ったんですけど流石に書けることがなさすぎるのでやめました.
藤岡敦『入門 情報幾何』
最近流行りの情報幾何の本です. 多分これが情報幾何の教科書の中で一番簡単だと思います 前提知識もほとんどいらず, 確率論や多様体論, リーマン幾何についてイチから説明されていて, 非常にわかりやすいです. ただその分, 導入だけというか, 情報幾何の面白さや応用についてはほとんど書いてないのでそこは注意. 情報幾何がどういうものなのか知りたい方におすすめ.
!甘利俊一『情報幾何の方法』
今読んでいる途中です. 情報幾何の開拓者である甘利先生が書いた本で, 記述が淡白で難しめです. リーマン幾何や確率論, 統計学についてある程度学んでから読んだほうがいいでしょう.
安藤清, 土屋守正, 松井泰子『例題で学ぶグラフ理論』
2年前くらいに授業の指定教科書として読んだだけなのでだいぶ忘れてますが, グラフ理論のわかりやすいいい本だったと記憶しています. グラフ理論に興味がある方は, YouTubeに早水先生の講義動画があるのでこれ片手に視聴してみてください.
清水泰隆『統計学への確率論, その先へ』
確率・統計の入門書…入門書?応用数学の本にしては珍しく, 証明がしっかり書いてあったり厳密性が重視されている感じがします. 確率論の理論的基礎付けをやりたい方におすすめ…かなぁ…
いい本なのは間違いないですが, ちょっと難しめ.
*久保川達也『現代数理統計学の基礎』
数理統計学の名著. 統計やりたいな~って人は(必要なら雰囲気を掴むための読み物とか読んでから)これやっとけばいいと思います. 演習問題メインで進めていくのがおすすめです. 統計検定1級を意識して書いてあるらしく, 統計数理に合格するだけなら6章くらいまでマスターすれば余裕だと思います. 統計応用は…
前述の通り演習問題がめちゃくちゃいいんですが, 8章の信頼区間のあたりまでしか問題がついておらず, 線形回帰とか分散分析は演習ができません. そこが玉に瑕ですね.
!T. レンスター『ベーシック圏論』
いわゆるベシ圏. 圏論の入門書です. 自然変換くらいまでしか読んでないので圏論の本番みたいなところは全然知らないんですが, 具体例が多くて読みやすかったです.
一応書いておきますと, これは数学科向けの圏論の教科書なので, 情報系の人には向かないと思います. 具体例とか数学的概念ばっかりだし…
おまけです. 数学書じゃないけど良かったので紹介します. 最近流行りのDeep Learningの入門書で, 段階を踏みつつゼロからニューラルネットワークを作り上げることができます. 1年次の教養科目のC言語以来情報系の勉強は一切してなかったんですが, そんな僕でもサクサク読めました. 統計とか機械学習の知識も全然いらなかったので「なんかAIやりたいなぁ」って人はとりあえず読んでみてはどうでしょうか.
まとめ
読んだ本をとりあえず挙げていったらものすごい分量になってました. この3分の1くらいを想定してたんですけどね. その分個々の紹介文はわりと短くなってしまいました. そのうち, 本当におすすめする本に絞ってもっと長々と書くやつもやりたいです.
この本についてもっと詳しく知りたいみたいな人がいればコンタクトください. できる限りは答えます.
それではまたいつか.